小島は日本六古窯の一つである伊賀焼の伝統を忠実に受け継ぎながら、薪窯による焼成と幅広い表現力で新たな伊賀のあり方を提示する作家です。伊賀の持つ枯淡の風合いはそのままに、緑鮮やかなビードロや大胆な焦げ、火色を用いて豊かな景色を見せる小島の作品は、剛胆でありながらも洗練された美しさを醸し出しています。
今回は松尾芭蕉の「おくのほそみち」をテーマに、場所がたどった場所や徘徊から喚起されるイメージを造形に写し出しています。伊賀は芭蕉も旅の途中で立ち寄った場所。今回改めて「おくのほそみち」を再考し、自分のなかのイメージと史実を丁寧に照らし合わせたという小島。現代の伊賀と「おくのほそみち」が融合し、新たな旅情が陶の上に展開されています。
旅を枕に新しい俳諧の道を求めて旅をし続けた芭蕉に思いを重ね、本流伊賀焼を作り続けてきた小島憲二が、立体造形の世界に向かって新しい旅を始める。この企画展がその一歩だそうである。 伊賀信楽の山から原土を掘り出し、伊賀焼に使う蛙目土と混ぜ、紐作りで形を作る。
そのせいか、 丸味や曲線がソフトで作品全体に温かみと穏やかさを感じさせている。 色柄付けは成形後半乾きになった頃を見計らって、釘で線刻し、その溝に顔料で、色象嵌をしている。 素焼をしてから彩色を施す。手の込んだ仕事である。だが象嵌ゆえ線が太く、釘で引っ掻く線には 土と共鳴した動きを感じさせる。線描では表せないあどけなさ、自然な味がこの線にはある。
繭玉を立てれば芭蕉の旅する姿を、繭玉を横たえれば旅する芭蕉の寝姿を想起させる。椅子によく似た造形は、寺院の階段に佇み足を休ませ静かに考え込んでいる芭蕉かと思う。また繭玉を二つ重ねれば男女の艶っぽさが出現する。芭蕉にも寿貞という女性がおったそうである。
この度の作品はいろいろな思いを起こさせる、楽しくて愉快な立体である。
伝 広志(ギャラリスト)