Group Exhibition 'White'

古来から日本人にとって白は特別な意味を持ち、嘘いつわりなくありのままに神様に向き合うための神聖な色でした。その起源として日本の太陽信仰があり、太陽の神である天照大御神が日本を創造した際、天の光が白であったということから、白を神聖視するようになったと考えられています。その後時代を経ながらも、白を最も神聖な色として考える概念は受け継がれていきました。

 

現代社会においてもこのような白を象徴する概念が息づいています。神社の素木(しらき)造りや、神道の神官の装束、祭祀に使う御幣など白は悪霊や穢れを払う色でもあります。他には生と死を象徴する白装束、喪服の白、赤ちゃんに着せる産着などがあるように、白は純真無垢を意味し、日本人の美意識の中で最も高貴な階級を表すとともに、厳格で極限の美とみなされています。

 

そしてまた、白は実験的で無限の表情を表す最も純粋な色です。歌舞伎役者、初代市川團十郎が初めたとされる白塗りは、暗い照明の中で繊細な表情の陰影を伝えるためだと言われています。

 

白の概念は国や文化によっても異なり、西洋では白は純粋、エレガンス、平和、清潔を象徴します。前近代の日韓では、社会の全般に亘って五行説の色彩概念と観念が強く影響を与えていました。五行説とは、中国の戦国時代に発生して理論付けられたものであり、 万 物 は 木・火・土・金・水の5元素でなっているという考え方です。その5元素には色彩も含まれており、この中で金は白と位置づけされ、「涼やかに澄み切り自然が地に返っていく終焉の色」とされています。

 

このような白の概念を踏まえ、本展では空間において白が作りだす可能性を検証いたします。信楽の自然土を使って強大な壺の中に佇まいを表す浜名一憲。白の釉薬の下に葉脈の流れや枯れ巻く線を描くことで生命の力強さや尊さを表現する稲葉周子。人類の文明を遡り、古来から変わらずあり続ける風景を陶粉画に表す尹煕倉の抽象画。採取した川の砂から作られる顔料は、数えきれないほど微妙に異なる色と濃度で作られ、平面に丁寧に配置されています。一貫して還元主義的な作品を制作をする桑山忠明は実験的な精神のもと作品の素材に関する探求を重ね、純粋な芸術を鑑賞者に体験させます。本展では1961-78年に制作された鳥の子紙を板に巻きつけたアクリルペインティングと75年制作のメタリックペイントを展示いたします。

 

そして、李禹煥、サラ・フリン、竹内紘三、出和絵理4人による磁器作品。磁器は透光性、硬質、高い形状記憶という性質があり、乾燥、焼成を経て有機的に変化します。李禹煥はフランスのセーブルにて、フランス産のより白の度合いが強い磁器を使い、焼成という人間が触れることのできない火の力を作品に表しました。サラ・フリンの轆轤で作りだす静かな造形は、純潔な精神をもって作品に取り組む一貫性と、選択を通して厳選されるフリンの世界観を提示します。竹内紘三は構築と破壊の中に生まれる美意識を、出和絵理は磁器の光の透過性にみる神秘的な美を表現します。

 

本展を通してそれぞれの違う物質が織りなす多様な陰影、白が空間内で作りだす純粋かつ無限の世界をご高覧いただけますと幸いです。

 

 

稲葉 周子(いなば・ちかこ)

1974年神奈川県横浜市生まれ。2007年より滋賀県にて制作。1996年武蔵野美術大学短期大学部デザイン科工芸デザイン陶磁コース卒業、2001年岐阜県多治見市陶磁器意匠研究所修了。2001年から国内外で数多くの個展やグループ展に出品。現代美術 艸居では2019年女性3人展「質感」に出展。受賞歴に2016年台湾国際金壺展銀賞(鶯歌、台湾)、2018年台湾国際金壺展佳作賞(鶯歌、台湾)などがある。

 

桑山 忠明(くわやま・ただあき)

1932年名古屋生まれ。1958年渡米。その後今日までニューヨークで制作。1956年東京芸術大学日本画科卒業。これまでの個展歴に1985年北九州市立美術館(北九州、福岡)、1996年DIC川村記念美術館(佐倉、千葉)、千葉市美術館(千葉)、2000年ルペルティヌム近代美術館(ザルツブルグ、オーストリア)、2010年名古屋市美術館(名古屋)、2011年国立国際美術館(大阪)、金沢21世紀美術館(石川)、2012年神奈川県立近代美術館(葉山、神奈川)など。受賞歴に1964年アート・イン・アメリカ新作家賞、1969年アメリカ国立芸術基金賞、1986年アドルフ&エッシャー・ゴットリーブ財団賞。主な収蔵先にグッゲンハイム美術館(ニューヨーク、ニューヨーク、アメリカ)、ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク、ニューヨーク、アメリカ)、オルブライト=ノックス美術館(バッファロー、ニューヨーク、アメリカ)、ベルリン国立美術館(ベルリン、ドイツ)、チューリッヒ構成美術・具象絵画財団(チューリッヒ、スイス)、東京国立近代美術館(東京)、国立国際美術館(大阪)など多数。

 

竹内 絋三(たけうち・こうぞう)

1977年兵庫県加東市生まれ。現在、兵庫県にて制作。2001年大阪芸術大学工芸学科陶芸コース卒業、2003年岐阜県多治見市陶磁器意匠研究所修了。2001年より精力的に数多くの個展やグループ展を国内外で開催。現代美術 艸居では2016年個展「Discover」の開催歴あり。受賞歴として2005年第27回長三賞現代陶芸展奨励賞、2016年神戸ビエンナーレ現代陶芸コンペティション奨励賞。主な収蔵先にボストン美術館(ボストン、マサチューセッツ、アメリカ)、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(ロンドン、イギリス)、チェルヌスキ美術館(パリ、フランス)、アナドル大学美術館(エスキシェヒール、トルコ)、兵庫陶芸美術館(丹波篠山、兵庫)、世界のタイル博物館(常滑、愛知)、茨城県陶芸美術館(笠間、茨城)等。

 

出和 絵理(でわ・えり)

1983年石川県かほく市生まれ。現在石川県金沢市で制作活動。2008年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程修了、2016年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科博士課程修了、博士号(美術)取得。日本各地及び韓国にて個展、グループ展の開催歴あり。受賞歴に2010年第57回ファエンツァ国際陶芸展ファエンツァ賞受賞。収蔵先に金沢美術工芸大学(金沢、石川)、ファエンツァ陶磁国際美術館(ファエンツァ、イタリア)がある。

 

浜名 一憲(はまな・かずのり)

1969年大阪府生まれ。現在千葉県いすみ市を拠点として制作活動。1988年農業高校卒業後、カリフォルニア州サンディエゴへ留学。帰国後、東京にてスニーカーショップや飲食店を経営する。作陶しする傍ら、米の自然栽培やアンチョビソースを製造販売する。Curator’s Cube (2018年・2020年、東京)、Blue Projects、Blue Mountain School (2019年、ロンドン) などで個展を開催。

その他、村上隆によるキュレーション展(2015年)や、横浜美術館 (2016年)、十和田市立現代美術館 (2017年) などの美術館でのグループ展にも参加している。 

 

Sara Flynn(さら・ふりん)

1971年スコットランド、コーク州生まれ。現在、北アイルランド、ベルファストにて制作。1992年クローフォード・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン卒業(コーク、アイルランド)。2019年に現代美術 艸居にて個展開催。主な受賞歴として、2005年アイルランドデザイン・クラフト協議会研究開発賞受賞、2006年アイルランドデザイン・クラフト協議会外遊奨学金賞、2007年アイルランドデザイン・クラフト協議会外遊奨学金賞、2010年ピーター・ブレナン・パイオニアリング・ポッター賞、2016年ゴールデン・フリース・アワード優秀賞、2019年ゴールデン・フリース・アワード入選など。主な収蔵先にヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(ロンドン、イギリス)、ガーディナー陶磁器博物館(トロント、カナダ)、ハント博物館(リマーリック、アイルランド)、フィッツウィリアム美術館(ケンブリッジ、イギリス)、シカゴ美術館(シカゴ、イリノイ、アメリカ)、アイルランド国立博物館(ダブリン、アイルランド)、クロフォード市立ギャラリー(コーク、アイルランド)等多数。

 

尹 煕倉(ゆん・ひちゃん)

1963年兵庫県生まれ。現在東京で制作。1988年多摩美術大学大学院美術研究科修了。1995年文化庁芸術家在外研修制度にてイギリスに1年間滞在制作。2010年文化庁新進芸術家海外研修制度の特別研修により大英博物館にて調査・研究。現在は多摩美術大学美術学部工芸科教授。2018年に現代美術艸居で初個展。主な収蔵先は寺田コレクション(東京)、東京オペラシティアートギャラリー(東京)、茨城県陶芸美術館(笠間、茨城)、常滑市(常滑、愛知)。 旅客船「guntû (ガンツウ)」、兵庫大学4号館(兵庫)、静岡県立静岡がんセンター(静岡)など。

 

李 禹煥(り・うーふぁん)

1936年大韓民国慶尚南道咸安郡生まれ。現在は鎌倉とパリを拠点に活動。1956年ソウル大学校美術大学を中退、来日。1961年日本大学文理学部哲学科卒業。1997年国立エコール・デ・ボザール招聘教授。多摩美術大学名誉教授。60年代後半から制作・理論の両面から「もの派」を牽引する中心的存在として活躍し、国内外から高い評価を集める。主な個展にハーシュホーン博物館と彫刻の庭(ワシントンD.C.、アメリカ)、ディア・ビーコン(ビーコン、ニューヨーク)、ポンピドゥー・センター=メッス(パリ、フランス)、サーペンタイン・サックラー・ギャラリー(ロンドン、イギリス)、ラトゥーレット修道院(リヨン、フランス)、エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク、ロシア)、ヴェルサイユ宮殿(ヴェルサイユ、フランス)、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク、ニューヨーク)など多数。現代美術艸居では2018年に個展、2019年にグループ展「MINGEI NOW」を開催。受賞/受章歴に1977年第13回現代日本美術展東京国立近代美術館賞、1979年第11回東京国際版画ビエンナーレ京都国立近代美術館賞、第1回ヘンリー・ムーア大賞展優秀賞、1991年フランス文化省よりシュヴァリエ芸術文化勲章受章、2000年中国・上海ビエンナーレユネスコ賞、2001年高松宮殿下記念世界文化賞絵画部門賞、2002年紫綬褒章受章など多数。2010年香川県直島に李禹煥美術館開館。主な収蔵先に李禹煥美術館(直島、香川)、東京国立近代美術館(東京)、京都国立近代美術館(京都)、国立国際美術館(大阪)、北海道立近代美術館(札幌、北海道)、東京都美術館(東京)、森美術館(東京)、原美術館(東京)、新潟県立近代美術館(新潟)、滋賀県立近代美術館(大津、滋賀)、和歌山県立近代美術館(和歌山)、大原美術館(倉敷、岡山)、広島市現代美術館(広島)、福岡アジア美術館(福岡)、福岡市美術館(福岡)、ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク、アメリカ)、ブルックリン美術館(ブルックリン、アメリカ)、グッケンハイム美術館(ニューヨーク、アメリカ)、テート・モダン(ロンドン、イギリス)、ポンピドゥーセンター(パリ、フランス)、旧国立美術館(ベルリン、ドイツ)、ドレスデン美術館(ドレスデン、ドイツ)、チューリッヒ美術館(チューリッヒ、スイス)、プラハ国立美術館(プラハ、チェコ)、エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク、ロシア)、M+(香港)、ソウル市立美術館(ソウル、韓国)、国立現代美術館(ソウル、韓国)、釜山市立美術館(釜山、韓国)、ニューサウスウェールズ州立美術館(シドニー、オーストラリア)、クリーンズランド美術館(ブリスベン、オーストラリア)など多数。