“ごく普通の男子用小便器をひっくり返し「R. Mutt」と署名、ニューヨークのアンデパンダン展に出品したマルセル・デュシャン。それから約100年が経った今の現代美術の次には、一体どのような世界が見えるのでしょうか。本展では、1200年以上の時の流れの中で多くの文化を育んできた古都京都を舞台に、現代の作家の手や言葉から紡がれる表現に焦点を当て、改めて創作の原点に立ち返りながら、「現代美術が終わっても」続けられる創作の行方を追います。本展に参加する4名の作家:青山悟、金氏徹平、川端健太郎、桑田卓郎の仕事からは、それぞれ、刺繍、彫刻、磁土、茶碗と対峙し続けながら思考を巡らせ、そして手を動かしながら、新しい世界を探求する姿勢を感じ取ることができます。京都のギャラリー艸居での展示機会を活かした新作と共に、以前に制作された実験的な作品の展示を通して、概念や素材、サイズ、メディアなどの既存の枠組みを飛び越えながら制作を続ける、現代の作家の多様で豊かな創作の世界を紹介します。“(文章:金島隆弘)
青山悟(1973年東京都生まれ、東京都在住)
大量生産のためのテクノロジーである工業用ミシンを用いて丹念に縫い上げられた刺繍作品を通して、現代人の生活とテクノロジーとの関係性を批評し、またそれにより失われつつある人間の感受性や創造性についての問題を提起する。
金氏徹平(1978年京都府生まれ、京都府京都市在住)
プラチック製品やキャラクターフィギュアなどのおもちゃ、雑誌の切り抜き、シールなど身の回りにあるものを素材に、コラージュ的手法で制作を行う。また、演劇『家電のように解り合えない』、『しあわせな日々』などでは舞台美術も手がける。
川端健太郎(1976年埼玉県生まれ、岐阜県瑞浪市在住)
磁器の手捻りによる独特な造形のオブジェは深海の生物のような神秘的な生命感を帯びる。その生命の振幅を膨らませ、繊細な指先で紡ぐように生み出されるかたちに、混ぜ込んだガラス片や、硫化させた銀が与える多彩な釉調は、鮮やかな色気を放つ。
桑田卓郎(1981年広島県生まれ、岐阜県土岐市在住)
大胆にデフォルメされた形とポップな色彩が特徴の作品の奥には、焼成した時にできる釉薬のひび割れである長石釉の「梅華皮」や、磁土に混ぜた石が焼成によってはぜて表面に現れた「石爆」など、茶陶の文化の中で景色として愛でられてきた技法が潜む。
金島隆弘(1977年東京都生まれ、中国北京市在住)
FEC代表(2008-)兼アート北京アートディレクター(2015-)。日本と中国、台湾、オーストリア等で、現代美術から工芸、ファッション、メディアアート等の展覧会を企画。主な展覧会として「Discharge Mode To Order」[横浜, 2008]、「次なる現実/Next Reality」[横浜, 2009]、「手感的妙/Contemporary airy crafts from Japan to Taiwan」[台北, 2010]、「平行的極東世界/Parallel Far East Worlds」[成都, 2012]、「Asia Cruise:物体事件/Object Matters」[台北, 2013]、「Find ASIA」[横浜, 2014]「Object Matters:概念と素材をめぐる日本の現代表現」[多治見, 2014]等。