武田 浪:補陀落

武田は1969年に渡米、その後8年間滞在し、その経験が武田の作家活動にとって大きな影響を与えています。セラミックデザイナーとして生活を送りながら、画家の八島太郎氏に師事し、作家としてロサンゼルスで作陶に没頭しました。当時の戦後アメリカの陶芸界は、ピーター・ヴォーコスらがクレイワークスとして陶芸と彫刻の垣根を取り払う作品を発表し熱狂に包まれていました。先行して渡米していた金子潤、中村綿平らに続き、武田もそうした渦中で自身の作品と向き合いました。

 

帰国後、武田は西琵琶湖の南小松に築窯し制作の拠点とします。そこで、焼くと荒々しく燃えるような赤味を帯びる湖底土と出会い、以降その土を「鬼が島」と命名しその可能性を追求して参りました。近年では、陶以外にも金属や流木を素材に用いてその作品の幅を広げています。

 

「補陀落」と題された今展覧会では、極楽浄土を目指して行われた補陀落渡海をテーマに制作した、舟を模したオブジェ作品9点と陶板4点を展示いたします。陶芸界において異端的経歴を持つ孤高の作家が老齢を迎え抱く死生観や信仰への想いを、作品を通じてご高覧頂けましたら幸いです。