星野暁:土と手の間から

星野は初期に黒陶の「表層・深層」で注目される作家となりましたが、1986年の集中豪雨による被災後、しばらく作品が作れない時期を経た後、それまでの前衛的作品をはなれ、一塊りの土を手に取り、改めて土と火で何が可能かをゼロから探るべく再出発しました。以降、「出現する形象」シリーズではこれまでの一切の道具と技術を捨て、土と手の無媒介な衝突、タッチから立ち現れるかたちを作品として呈示しました。土と手というやきものの始まりの原理をそこに示しています。

 

次に、柔かな土と手のみで高く立ち上がる形を作るには、如何なる方法が可能かを探るうち、ラセン構造に行き着き、それが(宇宙の)摂理に適っていることを再発見します。「始まりの形-螺旋」シリーズは、その構造とプロセスを露わにするかたちで表現されています。

 

さらに、冬の終わりのある晴れた日、雪山に登り、太陽の熱で雪が溶けて流れ落ちる様を見て、そこから釉薬はもちろん、土もその粒子が高温で「熔ける」ことで陶という質に成るという、彼にとってやきものの三つ目の原理を明確にしました。それを可視化した作品が「春の雪」シリーズに至ります。

 

星野にとって国内では10年振りの個展となる今展覧会では、第一の原理の土と手の間から生まれるかたちをベースに、第三の原理である高温焼成で土の粒子が熔けて焼き締り乾いた表情の作品「西域・陽炎」六点と、釉が溶けて流れる作品「春雪・山気」四点ほかを展示いたします。

 

自然の猛威に打ちのめされた後、自然と人間の関係の在るべき姿を土と手の間から生まれるかたちとして方法化した作品群は見る人に生きること、作ることの意味を深く問いかけ、考えさせる機会となるでしょう。