SOKYO ATSUMI では、國久真有「THE BUTTERFLY DREAM」を開催いたします。 今春、京都の艸居アネックスで開催された個展「BUTTERFLY EFFECT」に引き続き、本展では夢 と現実の境界に焦点を当て、國久作品の本質に迫ります。
國久真有は 1983 年大阪府生まれ。現在は関⻄圏を中心に画家として活動を広げています。2019 年 には「第 22 回岡本太郎現代芸術賞展」特別賞を受賞。2022 年は艸居での展覧会以外にも、開催中 (〜7/24)の兵庫県⻄脇市岡之山美術館「國久真有―絵画を生きる」やソウルでの個展も開催され るなど、國久にとって飛躍の年となります。
本展では、一辺が約 3m の巨大なスクエアサイズのペインティング《WIT-WIT》シリーズを発表い たします。そのサイズから「六甲ミーツ・アート芸術散歩」といった野外芸術祭で公開制作される ことが多かった大作ですが、このたびホワイトキューブの空間で初めて披露されます。この 3 点の 大作を中心に、3m の大型ペインティングを切断して作られた小作品《AUTOLYSIS》シリーズを交え ながら展覧会を構成しております。
展題「THE BUTTERFLY DREAM」は、中国・戦国時代の思想家である荘子の有名な説話『胡蝶の 夢』から取られています。
「夢の中で蝶となって宙をひらひらと舞っていたが、目を覚まして我に返ると人間の荘子であった。 蝶になった夢を見ていたのか、それとも夢の中での蝶こそが自分自身であるのか...」
この説話は夢と現実の境界や、物事が変化していく様を例えていると考えられています。國久は 「人々は現実と夢を分けて考えがちだが、本当にそうなのだろうか。そこに思いを巡らせながらこ の言葉を展題に選んだ」と述べています。
國久のペインティングの特徴は、身体を目一杯使って描き出す線描にあります。身体を軸とし腕の ストロークと遠心力を用いて円弧を重ねて描いていく《WIT-WIT》シリーズの名称は、古代ローマ 時代の建築家ウィトルウィウスの『建築論』の記述をもとにレオナルド・ダ・ヴィンチが 1485〜 1490 年頃に描いたドローイング『ウィトルウィウス的人体図』に由来します。四角い平面に作家自 身の身⻑と同じ⻑さの円が積層し、何次元もの空間の奥行きが生まれます。本シリーズは 2014 年よ り継続して制作に取り組んでいます。 「弧の線」を重ねることで「光」を表現しているという國久。フリーハンドで平面の上に描き出さ れる線は円弧となりますが、作家自身の視点からすればそれは自らの体に対し真直ぐに存在してい る線でもあります。本来ならば目に見えないはずの線が、その時の心情や、季節、環境、気温とい った外的要因に応じて選択された色彩でキャンバスの上に描かれています。
本展で展示される大型ペインティングは、中央に白い空間が存在しています。これは 3m 近いキャン バスの大きさもあり、全身を使った円弧の描写が届かず「絵具が塗られていない」部分です。絵を 描く行為の結果として生み出された白い空間は、絵具と支持体の結びつきを暗示しているようでも あります。そのイリュージョニスティックな境界性はまさしく『胡蝶の夢』を想起させ、歴史的に 絵画が言及し続けてきた「描く/描かれる」といった二項関係を鑑賞者に問いかけます。
絵画を描くことに真摯に向き合いながら制作されたスケール感溢れる國久の作品を、この機会にぜ ひご高覧いただけますと幸いです。