青木 千絵:沈静なる⾝体

青木作品は、森美術館(〜3月26日)にて同時開催中のグループ展「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」に大型作品も含め4点出展しております。青木は学生時代に出会った漆を使って、具象的な人体表現と抽象的な物質描写を融合した作品を制作してきました。これまでに艸居(京都)では、2018年と2021年に青木の個展を開催しています。また、本展では青木の代表的なシリーズである《BODY》の最新作を中心に、「ドローイングから」と題した抽象作品、そして近年の新しい取り組みであるドローイングを発表いたします。

 

なめらかなフォルムと漆黒の深い艶が同居した青木の作品《BODY》は、乾漆造りという伝統的な工芸技法で制作されています。乾漆は、像の上に布を貼っていき、非常に薄い漆を塗り重ねて造形します。青木にとって、このような乾漆の制作過程が作品性にも通じている部分があると言います。

 

青木の作品はうつむいたり、横たわったり、座り込んだり、立ち尽くしたり と、「外界から遮断するような」[注]孤立感を鑑賞者に与えます。内向的で、殻に閉じこもったような表現から、2021年の艸居での個展を機に、個展タイトルともなった「融体化する身体」に象徴される近作は他者と自己が融合していくイメージへと、作品の核の部分を保ちつつも変化し続けています。

 

無限の奥行きを思わせる漆黒の色彩と光沢は青木の作品の大きな特徴といえるでしょう。黒という光を吸収する色でありながらそれを拒むように反射する表層と、漆を幾重にも重ねることで堅牢な殻のようになっていく乾漆の技法は、現代社会における人間の孤独や不安に向き合おうとする青木作品の精神性と深く共鳴しています。

 

本展で特に注目すべき作品は、高さが約150cmの大作《BODY 22-3 −宙を懐く−》です。立っている人物は液状化しながら、地面に引き寄せられているようでもあり、目に見えない大きな力を感じさせる作品です。それと同時に、赤みを帯びた漆の色が漆黒とグラデーションになって、人物と物質の境界をゆるやかに表現しています。

 

青木作品に見られる硬く美しい漆の表面は、弱くて醜い人間を逞しく美しい存在に変えてくれているかのようです。是非この機会にご高覧いただけますと幸いです。

 

[注]青木千絵「漆黒の身体–愛おしい人間の存在–」『青木千絵』艸居、2018年、46頁

 

 

青木千絵

漆作家。1981年 岐⾩⽣まれ。⽯川県野々市 在住。2010年 ⾦沢美術⼯芸⼤学 修芸術博⼠号を取得。同年、学⻑賞を受賞。現在、⾦沢美術⼯芸⼤学准教授。2005年 ⽇本漆⼯奨学賞。2019年 ⾦沢世界⼯芸コンペティション優秀賞を受賞。                                                                            

近年、青木は自己と他者の融合を目指している。黒と⾚の漆をグラデーションにして⼈物と物質の境界を緩やかに表現する。学⽣時代、青木は漆*に出会う。現代社会における⼈間の孤独や不安に向き合う。乾漆**を通して内向的で殻に閉じこもった孤立感***を表現する。漆は⻘⽊の精神性と深く共鳴している。これまで、具象的な⼈体表現と抽象的な物質描写を融合した作品を数多く制作。

 

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