道川 省三: だつだつし ー 伝統の先に見えるもの ー

本展覧会タイトル「たづたづし」は万葉集「夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む」から取られた言葉です。「たづたづし」は「はっきりとせず、不安である」という意味で、道川は、「先行きが不透明な現代社会においても、常に前向きな姿勢で新しいことに挑戦する」という本展への思いをこの言葉に込めています。

 

道川作品は、轆轤の遠心力を駆使して生み出される螺旋状の力強いフォルムで知られています。土と対話し、土に本来備わっている造形と真摯に向き合いながら、逆説的、実験的な方法で常に新しい制作に挑戦しています。北海道、有珠山の麓に生まれ育ち、幼少時代から触れ親しんできた雄大かつ驚異的な自然を作品に表現します。

 

《Volcano》は有珠山をイメージして制作された作品で、鉄分の強い赤土に部分的に鉄釉を施釉し、穴窯で3日間焼成されました。窯のなかで薪の自然灰と鉄釉が溶け合い、独特の火山の熔岩のようなテクスチャーを表現しています。《Kohiki Natural Ash Sculpture》は、マット釉を使うことで、光の僅かな違いを立体的に表現しています。暖かく落ち着きがある色が特徴的で、轆轤の強い力を利用し背の高い直方体の土の塊を分断するダイナミズムも本作の大きな魅力となっております。その他、複数の色土を使用した彫刻や、伝統とは相対した焼成方法によって生み出された新作を展示いたします。荒々しさを感じさせながらも火や自然釉から偶然によって生み出される形状と、テクスチャーの繊細なコントラストは高度に洗練されたバランスを感じさせます。鑑賞者に語りかけるような強い表現性は、陶による芸術の一つの到達点を示しているといえるでしょう。

 

展覧会の構成においては谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を引用しており、薄暗い空間に作品がぼんやりと浮かび上がります。日本の美意識は陰翳との共存にあり、日本人が見出してきた奥ゆかしさや趣が闇に潜みます。本展を通じて、道川の世界観に触れると共に、日本のアイデンティティーや美意識のあり方を再考する機会になれば幸いです。―いにしえより日本人が築いてきた美意識を、道川は現代においてどのように継承し、本展で発展させたのか― 是非ともこの機会に本展をご高覧いただきますようお願い申し上げます。

 

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