三島喜美代:1950年代から2021年まで

三島が「割れる印刷物」と評される陶の作品を発表したのは、1971年のことです。同年、《Package》が日本陶芸展に入選し、アメリカやカナダにも巡回されたことで国内外の注目を集め始めます。近年では2019年に大英博物館で開催された「The Citi exhibition Manga」に《Comic Book 17-S》が出品され、コレクションにも加えられました。三島は森美術館での「アナザーエナジー展」において日本で活動する唯一の作家として展示されている他、割れない陶器の実験的な制作をしていた《Printed Pipes-75》がポンピドゥ・センターに収蔵されるなど、近年更なる目覚ましい活躍をしています。今秋にはフランスのパリ市立近代美術館でのグループ展「The Flames. The Age of Ceramics」にも出展が決まっており、国際的な評価が一層高まっています。今回の個展では「The Flames. The Age of Ceramics」に出品される同シリーズの初期作品《Work 12-C2》を、Boxシリーズから《Box Sunkist 20》《Box Coca Cola 21-2》を展示し、「割れる印刷物」の現在の形を示します。

 

 三島は陶の作品のみならず、廃棄された金属や木片などを組み合わせた立体作品も制作しています。土岐市と十三にあるアトリエは、制作の現場であると同時に、三島が面白いと感じた蒐集物の保管場でもあります。こうした蒐集物の大半は長年置いていたドラム缶や木片など、一般的にはゴミと認識されるものですが、三島にとっては作品制作の上で重要な意味を持っています。《Work 21-B》《Work 21-B2》は、そうした廃棄物やシラスで制作された最新作です。《Work 72-J》は、こうした作品群の中でもとりわけ古く1972年に制作されたもので、チキンワイヤーや木の枝、転写した紙などを組み合わせた、三島が試行錯誤しながらも新しい表現方法を見出していく原点ともなる画期的な作品です。

 

 展示室でとりわけ存在感を放つのは、少年マガジンと少年ジャンプをモチーフとした溶融スラグ*による巨大なコミックブック《Comic Book 03-1》《Comic Book 03-2》です。陶によるコミックブックとは異なり、廃棄物を利用した立体作品の系譜に属する貴重な作例です。直島に屋外設置されている「もうひとつの再生 2005-N」は溶融スラグと廃土からつくられており、この巨大コミックブックは、国立国際美術館で2003年に開催された「大地の芸術―クレイワーク新世紀展」に出品された作品でもあります。

 

 本展のハイライトとなるのは、1950年代から60年代に制作された未発表の絵画作品です。ハンス・ウルリッヒ・オブリストとのインタビューで語った様に、三島が絵を書き始めたのは高等女学校時代に遡ります。当時、日本舞踊も習っていた三島は、決まった型に沿って行われ、自分で自由な振り付けの許されない舞踊に煩わしさを感じたと言います。一方で、高等女学校の受け持ちの美術の先生から「自分の好きなものを描けばいい」と教えられた三島は、「自分の好きなこと」ができる絵画に没頭していきました。そして50年代より三島茂司の画塾に通い絵画の制作を始め、その後、伴侶ともなる三島茂司に師事し、新聞紙、雑誌、馬券、蚊帳など、印刷物や廃材を使用したコラージュ作品に取り組みました。

 

《無題》は1957年に制作された最も初期の作品です。今回の個展で初公開となる本作は50年代の作品で、油彩による荒々しい絵肌は、初期の絵画に見られる貴重な要素です。

 

《作品 64-III》《作品 II》はその時代を反映した新聞紙、雑誌を用いたコラージュの平面作品です。とりわけ前者に顕著な新聞のコラージュは、キャンバス上で継ぎ接ぎされた文章が絡み合い、不鮮明な大量の情報が一気に視覚へと飛び込んでくる様は、三島が言うところの「情報の恐怖」を具現化しているようにも見えます。

 

 独立展に出品された来歴を持つ《作品68-A》と《作品68-B》は同じ構造を持った対の作品です。ここでは中央に据えられた巨大な色面が視覚上の主役として位置づけられています。

 

 是非本展覧会で、今回初公開となる1950年代から現在に至るまでの三島の活動をご高覧頂ければ幸いです。

 

 2021年2月28日にハンス・ウルリッヒ・オブリスト氏と三島が3時間にわたって行なったインタビューと本展の出品作品を掲載しましたカタログを出版いたします。

 

 

 

三島 喜美代(みしま きみよ)

1932年大阪市生まれ。現在は十三(大阪)と土岐(岐阜)にて制作を行う。1954年より独立展に出展。1986-87年ロックフェラー財団の奨学金によりニューヨークに滞在。主な受賞歴は独立展大阪市賞(1961年)、独立賞・須田賞(1963年)、第9回シェル美術賞展佳作賞(1965年)、ファエンツァ国際陶芸展ゴールドメダル(1974年)、第11回現代日本美術展佳作賞(1975年)、日本現代陶彫展'88金賞(1988年)、彩の国さいたま彫刻バラエティ'96・大賞(1998年)、第19回現代日本彫刻展山口県立美術館賞・市民賞(2001年)など。2019年にはトリノ(イタリア)で開催されたArtissimaにて、Sardi per l'Arte Back to the Future Prizeを受賞。同年、芸術家としては初めての第5回安藤忠雄文化財団賞を受賞している。主なコレクションには京都国立近代美術館(京都)、国立国際美術館(大阪)、東京都現代美術館(東京)、京都市京セラ美術館(京都)、兵庫県立美術館(兵庫)、滋賀県立陶芸の森(滋賀)、岐阜県現代陶芸美術館(岐阜)、ベネッセアートサイト直島(香川)、ファエンツァ陶芸美術館(イタリア)、シカゴ美術館(アメリカ)、ボストン美術館(アメリカ)、大英博物館(イギリス)、M+(香港)、ポンピドゥー・センター(フランス)など多数。2021年4月22日から9月26日まで、森美術館(東京)の「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」、2021年10月15日から2022年2月6日までパリ市立近代美術館(フランス)での「Flames. The Age of Ceramics」に出展。

 

 

*ゴミを1400℃の高温で焼成し出来たガラス状の粉末。