シルヴィ・オーヴレ: 野獣と箒

現在パリにて制作を行っているオーヴレが絵を描き始めたのは10代の頃ですが、作品に美術としての要素、彫刻、陶芸が追加されたことを除けば、彼女の作風はこの20年間変わっておらず、このことは注目に値します。陶の作品に取り組み始めたとき、一人の画家として様々な制約から完全に解き放たれ心が癒されたのだとオーヴレは言います。彼女は、一般的にはあまり組み合わされない素材の組み合わせを特徴とするドローイングや作品で大きな注目を集めています。例えば、箒の繊維と陶器をクリエイティブにブレンドすることで、普通の箒は神秘的な笏に変身します。特に、生々しく有機的で頑丈な外観の野獣と一緒に登場させることで、彼女ならではの世界観を作り出します。

 

 

ユキノハナと寄生植物

 

この箒作品を焼いたのはパリから南へ2時間ほど行ったところにあるラボルヌという小さな村だった。野獣作品のほうはリヨン近郊に位置するアーティストインレジデンス施設「モリー・サバタ」でこの夏(2020年)に焼いた。薪窯を使うのはこれが初めてだった。作品がすべて仕上がると、1970年代に私が生まれた町まで15分ほどの場所に位置するパリにある自分のアトリエに集めた。

 

私の作品をなすものは、旅先や、さまざまな経験をするなかで偶然見つけたこまごまとしたものだ。私はいつも石や木切れをポケットに入れる。それはプラスチックの断片だったりもする。そこに美的なるものを感じるのだ。......いや、実はそうじゃなくて、いろんな人と過ごした大切な時間を彷彿とさせたいからかもしれないし、古代にも通じるような行為をしているだけなのかもしれない。そしてアトリエに戻り、このモノたちにまつわる私自身の物語をまた違ったかたちで綴るように、それらをふたたび巡り合わせて繫がりを生もうとするのだ。

 

ドローイング作品は2つの要素からなっていて、1つはメキシコ滞在時に持ち歩いていたスケッチブック(ほとんどはアナワカリ博物館で描いたもの)を基にしたモノプリントだ。もう1つはふだんの生活で目に触れるモノ(たとえばアトリエの壁に掛かっている郵便カレンダーのタツノオトシゴ)、つまりは毎日のルーティンのなかでふと気づいた事柄だったり、いつか版のデザインに使えるかもしれないようなディテールだったりする。

 

ドローイングを目にしながら彫刻制作を始めるなんてことはしない。粘土に向き合うときにはドローイングのイメージは頭の中に入っているし、指先が覚えているのだ。ファイバー素材のほとんどは南仏サナリー=シュル=メールの海岸で拾い集めたもの。カリフォルニア州でサンタアナの山火事が起こっている頃、ズマビーチで集めたものも中にはある。

 

作品の大部分が旅そのものや旅先などで道すがら集めたものに関係している。想像力を働かせれば、箒が地球上のどこへでもいざなってくれる――今はそんな風に想像したい。それぞれがその箒ならではの場所に連れて行ってくれたらさぞ面白いだろうなと。

 

箒シリーズを始めたのは2~3年前にテキサス州マーファのチナティ財団美術館でレジデンス制作をしていたときのこと。あるガソリンスタンドの隣で店を構えて箒を売る一人の老男性店主と仲良くなった。店主は砂漠で棒切れを拾い集めては自宅用の箒を作っていた。私は店内の雰囲気を気に入って長居したものだった。床はファイバー素材や藁でいっぱいだったし、さまざまな色の糸やサボテンの骨「カクタスボーン」の古くなったものがうず高く積んであって、私は当たり前のように魔女の箒を作る工房を想像した。実に詩的でありながらも、そこは箒という世界中で最もよく使う道具の1つを扱う素朴なお店なのだ。

 

箒の彫刻は誰が見ても箒と分かる。そこに惹かれている。最もありふれた家庭用品の代表格、それが箒だ。それでいて多くの儀式や宗教行為などにも結びついていて私たちの頭の中にたくさんの空想を呼び覚ます(ほとんどは私たちが魔女と呼ぶ異彩を放つ女性のことだ)。箒のシンプルで自己主張が控えめなところが良い。私は粘土やしっくいのように素朴なマテリアルと向き合うことを好んでいる。大理石やブロンズは「仰々しい」感じがして決まって少し恐れをなす。

 

箒作品は粘土で持ち手部分を作るところから始めた。私が粘土を使うときはいつもそうだが、立ち現れるかたちはごくささやかだ。そのかたちがどこから来るのか自分でもわかっていないが、描いたり彫刻したりするときは至ってシンプルに頭や指先に想いがある。

 

トランプを切るようにものごとをミックスアンドマッチしたりシャッフルしたりして、“CADAVRES EXQUIS(優美な死骸)”を作りたいと思っている。ものごとを規律や順序の異なる状態に置けば異なる意味が生じ、それによって受け手の想像世界で新しい物語が始まるのだから。

-シルヴィ・オーヴレ

 

 

 

シルヴィ・オーヴレ

1974年生まれ。現在パリに在住、制作活動。1993年にモンペリエ芸術大学(フランス)を卒業、1996年にシティアンドギルドオブロンドンアートスクール(イギリス)にて学士を取得。

主なコレクションにはCollection du Centre National des Arts Plastiques(パリ・フランス)、パリ市立近代美術館(パリ・フランス)、総合文化センター「MÉCA」(ボルドー・フランス)などほか多数。

主な個展には「Rings」ギャルリ・フランチェスカ・ピア、チューリッヒ・スイス(2015年)、「John’s feet」チェンバレン・ビルディング、チナティ財団、マーファ・テキサス・アメリカ(2016年)、「Les Cambuses」ギャルリ・ローラン・ゴダン、パリ・フランス(2019年)、「Aux foyers」モリー・サバタ、アルベール・グレーズ財団、サブロン・フランス(2020年)など。近年のグループ展には、「Nouveau Festival」ザビエル・ドゥルー、パントゥール・パルレ、ポンピドゥセンター、パリ・フランス(2009年)、「Medusa」パリ市立近代美術館、パリ・フランス(2017年)、「Citoyennes paradoxales」FRAC シャンパーニュ・アルデンヌ・コレクション、トー宮殿(ランス・フランス)、「Fire and Clay」ガゴシアン・ギャラリー、ジュネーヴ・スイス(2018年)、「La Musée」コミッショナー:アザド・アシフォヴィッチ、ギャルリ・イタリアンヌ、パリ・フランス(2019年)、「All of Them Witches」ジェフリー・ダイチ・ギャラリー、ロサンゼルス・カリフォルニア・アメリカ(2020年)など。

アーティスト・イン・レジデンスにチナティ財団、マーファ・テキサス・アメリカ(2016年)、セラミック・アーツ・プログラム、カリフォルニア州立大学、ロングビーチ校、カリフォルニア・アメリカ(2017年と2019年)。