「銹陶(しゅうとう)」とは、その錆びたような肌合いの作品に井口が自らつけた呼称です。成形して素焼きをした後、水で溶いた籾殻の灰を全面にむらなく吹き付けて焼成。焼き上がり後白く粉を吹いたようになる作品の表面をワイヤーブラシで磨いていくと、その下からこの独特な肌合いが現れます。「鉄の錆や苔むした石など、自然界で時の経過により朽ちていく表情に強く魅力を感じる」と語る井口。この技法にたどり着くまでには、石や木など様々な素材を用いた長年の試行錯誤がありました。現在は籾殻の灰に何を混ぜるかによって色の表情を変えたりと新しい表現にも取り組んでいます。
また、井口の作品に特徴的なのは紐づくりによって形作られる柔らかな丸みと緊張感を帯びたシャープな輪郭です。さまざまな制作を進めていくにつれ、”器“という制約がある中で形にする難しさと面白さに魅了された井口は、「そのものの内側と外側、それが交わる線、そして素材の美しさを損なわぬよう、歪みなく緊張感のある造形を強く意識し、またそれらの魅力を引き出せるような彩色を心がけて制作している」と語ります。作品表面の細かな線条は細長く切り出したマスキングテープを一本一本丁寧に貼り付けて彩色することにより描き出されたもので、錆びた風合いの肌と共に作品のフォルムを一層引き立たせ、時の重なりを感じさせます。
自身の造形表現への飽くなき探求を繰り返し、ますますの深化を遂げている井口の「銹陶」の世界をこの機会にぜひご高覧ください。
井口大輔(いぐち・だいすけ)
1975年栃木県生まれ。1998年東北芸術工科大学芸術学部美術科陶芸卒業、1999年栃木県窯業指導所研究生を修了したのち浦口雅行氏に師事。2004年より栃木県真岡市にて制作を行う。
主な個展は2018年「Depth of Time/ THE CLAY ART OF IGUCHI DAISUKE」JOAN B MIRVISS(ニューヨーク・ニューヨーク・アメリカ)、2019年「DAISUKE IGUCHI」PIERRE MARIE GIRAUD(ブリュッセル・ベルギー)、2021年「井口大輔 -銹陶- /DAISUKE IGUCHI -SHUTO-」阪急うめだ本店7階美術画廊など。主なグループ展には、2002年「第4回益子陶芸展」、2012年「茶の湯の現代」菊池寛実記念 智美術館(東京)、2013年「笠間×益子 新世代のenergy」茨城県陶芸美術館(笠間・茨城);益子陶芸美術館(2014年巡回)(芳賀・栃木)、2014年「現代・陶芸現象」茨城県陶芸美術館(笠間・茨城)、2016年「菊池寛実賞 工芸の現在」菊池寛実記念 智美術館(東京)、2018年「工芸の教科書」栃木県立美術館(宇都宮・栃木)、2019年「土と抽象 記憶が形に生まれるとき」益子陶芸美術館(芳賀・栃木)など。受賞歴には2008年「第7回益子陶芸展」審査員特別賞、2014年「第54回東日本伝統工芸展」東京都知事賞、2019年「第14回パラミタ陶芸大賞展」大賞がある。コレクションには茨城県陶芸美術館(笠間・茨城)、益子陶芸美術館(芳賀・栃木)、パラミタミュージアム(三重)、Arkansas Arts Center(現:Arkansas Museum of Fine Arts)(リトルロック・アーカンソー・アメリカ)がある。