⼤学3年⽣の春、京都市美術館で観た⾛泥社展の衝撃が私の「⽣き⽅」を決めた。その後の制作の ⽇々は、陶の⽴体造形作品の虜になった私の「⼼の奥底を覗く」ことだけにあったように思う。粘 ⼟の可塑性と焼成に寄り添いもたれるように⾝を任せた時もある。時には反発し抑え込もうと格闘 し、もがいた。 時は過ぎ⽇常性の中での 50 年に渡る制作は、理性にコントロールされた「理想」を織り込むこと も必要ではないかと、かたくなに貫いた素材に対する態度も緩む。 「無⼼につくることで粘⼟と⼀体となり、本能のうごめきや、⾃覚のない本性が曳ずりだされる。」 そんな陶芸の有機的で⽣の魅⼒は「今を⽣きる」若者の作品に任せて、私は「綺麗ごと」の中で制 作してみようかとぼんやり思うのである。 ― 中島晴美
熊倉順吉⽒に師事するきっかけかつ制作活動の起点となった作品「魂」(1971)。師の「誰にもな い⾃分だけの造形論をつくっていくのが作家だ」いう⾔葉を実践するべく、⼟と対話し、⾃⾝を作 品に織り込んできました。⼟と触れ合い魂を吹き込むことで⾃⾝の存在を確認する。本作を出発点 としてその後も「純粋培養」(1980)、「うふふ」(1984)「コスモス⾊の⽻を持つ⿃」(1986)などを 世に送り出しました。2002 年にはオランダにあるヨーロピアン・セラミック・ワーク・センター (EKWC)に招聘されたのを機に、陶⼟から磁⼟に素材を変えて磁器の⼿捻り形成に打ち込むよう になりました。今展では中島にとっての⼤きな転換期となった 2000 年代の磁器作品「WORK0506」(2005)も、最新の磁器作品とともにご覧いただけます。
⼟の可塑性に向き合い、⾃⾝の「⼼の正体」を魂のざわめきに導かれるかのように表現してきた 中島晴美。常に進化を繰り返し、開いてきた境地は並⼤抵のものではありませんでした。葛藤、潔 い決断。誰に媚びることなく「やきもののなかで何をつくるか。」と⾃問⾃答を繰り返し、中島⾃⾝ の有機的形象を確⽴しました。本展を通し、⼟の性質に本能的、⾁体的、そして瞑想的に委ねられ た中島の魂と⽣き様を感じていただけることと思います。
中島 晴美(なかしま・はるみ)
1950 年岐⾩県⽣まれ。1973 年⼤阪芸術⼤学デザイン科陶芸専攻を卒業後、信楽にて制作。1976 年 より多治⾒市陶磁器意匠研究所勤務、2003 年には愛知教育⼤学教授として勤務し、現在は多治⾒市 陶磁器意匠研究所所⻑を務める傍ら、岐⾩県恵那市にて制作を⾏う。 受賞歴は 1980 年毎⽇ ID 賞特選 2 席受賞、1995 年国際陶磁器展美濃ʼ95 陶芸部⾨⾦賞受賞(1989 年 同銅賞受賞)、2010 年⽇本陶磁協会賞受賞。収蔵先に東京国⽴近代美術館(東京)、岐⾩県現代陶芸美術館(岐⾩)、⾦沢 21 世紀美術館(⽯川)、エバーソン美術館(シラキュース・アメリカ)、ファ エンツァ陶磁国際美術館(イタリア)、ヨーロピアン・セラミック・ワーク・センター(オラン ダ)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)、上虞⻘現代国際陶芸センター(上 虞・中国)、清華⼤学(北京)など、ほか多数。