女流作家4人展

菅野の制作は⾃⾝の経験やそこから⽣まれる感情が出発点となっています。過去の記憶や感 情が⽇常⽣活の様々な場⾯で繰り返し浮き上がってきては、様々なことに影響を及ぼします。無 意識のうちに影響を与える記憶や感情は無形でありながらも確かに存在しています。そう⾝体 が受け取るはっきりとした感覚を、彼⼥は⼈物や具象的なモチーフで表現します。また、⼈間の 美的感覚に強く訴える現象として、光を造形していくことができるガラスの素材としての可能 性を感じながら、菅野は⽇々の制作に取り組んでいます。本展で展⽰される「重し」はコロナウ イルスの世界的蔓延からインスピレーションを受けた作品です。これまでの⽇常が失われ、先の ⾒えない不安の中で、⼤切なものが⾶んでいってしまわないような「重し」になるものを作ろう と思ったと菅野は語っています。

 

⽥中は陶で花の命を表します。制作において、⼟の可塑性や乾燥による歪みといった様々な性 質を持つ⼟に触れていると、彼⼥は命というものを⾝体的に感じると⾔います。⽥中はそのよう な性質を持つ⼟が焼成され陶に変化した時に、その命が危うげで繊細でありながらも、⼒強い存 在になると感じています。⽥中が「⼈の世が絶え間なく移り⾏く、儚い命を思う儀式としての装 置」と語る陶の花は、⾒る者に⽣命の⼒強さと、時が来れば散っていく儚い⾯を⾒せてくれるか のようです。本展展⽰作品も、⽣け花で剪定された花や、葬儀の際祭壇に飾られるシンパシーフ ラワーがモチーフになるなど、「命」を強く連想させる作品となっています。

 

朴⽊はモスクのモザイクタイルや密教の曼陀羅、吉祥天像や地蔵菩薩などの古今東⻄の信仰 対象としての⼯芸品や美術品の要素を、現代に⽣きる彼⼥⾃⾝の感性を通して具現化していま す。神の存在や死後の世界など⼈間の理解の範疇を超えたそれぞれの⽂化や宗教観からとらえ たスピリチュアルな創作物はそれぞれに綿密さや強固な世界観を持っています。時代や地域を 超えてそれらに触れられるという現代⼈の優位性を活かし、彼⼥は独⾃の感性を融合させた新 たな祈りのための作品を模索しています。朴⽊が陶を⽤いる理由は、⼯芸品としての美しさ、加 飾技法による絵画性、彫刻的な⽴体造形という信仰対象としてのアイコン的要素を兼ね備えて いるからです。オブジェ作品だけでなく、器の制作も⾏っている朴⽊ですが、⼀般的な器が実⽤ 的な⽤途を持った物理的な器であるならば、本展で展⽰する「陶祠」は鑑賞者の⼼を満たす精神 的器としての意味を持っています。

 

⽶津は「もの」に内在する「もの」をとらえることをテーマとして制作活動を⾏っています。 制作媒体にガラスを選択する理由として、彼⼥はガラスという素材が持つ透過性や技法の多様 性への可能性を挙げています。現在の彼⼥の技法は鋳造したガラスを冷却してひびを⼊れ、砕い た形状を継ぎなおして再構築するというもので、その独⾃の⼿法で表現の幅を広げています。本 展で展⽰する「Concept」シリーズでは、死を意識するまでの過程を制作へ落とし込みました。 ⽣き物に内在する⾻には⾃然が作り出す構造や機能に基づいた遺伝⼦ルールにその個体が⽣き た痕跡が組み込まれています。彼⼥はその美しさを造形としてとらえた後、ガラスに焼成し、焼 きあがったものを砕いて、再構築していきます。創造、破壊、再構築という彼⼥の制作過程は死 をゆっくりと黙想しながらの作業でもあります。

 

 

菅野 有紀⼦(すがの ゆきこ)

1983 年兵庫県⽣まれ。現在、兵庫県にて制作。2012 年能登島ガラス⼯房吹きガラス⼀年講座 修了。2012-2015 年 Glass Studio Toos、2015-2017 年三⽥市ガラス⼯芸館にて勤務。2020 年⾦ 沢卯⾠⼭⼯芸⼯房修了。受賞歴は 2019 年第 4 回⾦沢・世界⼯芸トリエンナーレ⼤賞。出展展覧 会に 2018 年⾦沢卯⾠⼭⼯芸⼯房研修者作品展(⽯川)、2019 年 Art Fair Tokyo 2019(東京)、 2020 年 Rempah Rempah での個展「誰かの⼈々」(⽯川)がある。

 

⽥中 陽⼦(たなか ようこ)

1992 年⽯川県⾦沢市⽣まれ。現在、茨城県にて制作。2015 年⾦沢美術⼯芸⼤学⼯芸学部⼯芸 科卒業、2017 年⾦沢美術⼯芸⼤学⼤学院美術⼯芸研究科修⼠課程修了、同年⾦沢卯⾠⼭⼯芸⼯ 房⼊所。受賞歴に 2015 年「マイヤー×信楽⼤賞」⽇本陶芸の今―伝統と⾰新⼊選、2016 年現在 の形の陶芸萩⼤賞展 IV 岩国美術賞、第 3 回世界⼯芸トリエンナーレ⼊選、2017 年第 7 回菊池ビ エンナーレ展現在陶芸の今⼊選、Art Award Tokyo Marunouchi 2017 審査員⾼橋明也賞受賞、2018 年第 74 回⾦沢市⼯芸展⾦沢⼯芸⼤学学⻑賞受賞。出展展覧会として 2019 年 Art Fair Tokyo 2019 (東京)、Infinity Japan contemporary art show 2019(台湾)、Art Expo Malaysia 2019(マレーシ ア)、KOGEI Art Fair Kanazawa 2019(⽯川)がある。

 

朴⽊ 友美(ほおのき ともみ)

1989 年⽯川県⽣まれ。現在、⽯川県にて制作。2012 年都留⽂科⼤学⽂学部国⽂学科卒業、2016 年⽯川県九⾕焼技術研究所研究科修了。2016-2018 年陶芸⼯房従事。2019 年⾦沢卯⾠⼭⼯芸⼯ 房⼊所。受賞歴に 2015 年第 30 回⽯川の現在⼯芸展 NHK ⾦沢放送局⻑賞、2016 年⽯川県⽴九 ⾕焼技術研究所 28 年度パーマネントコレクション選定。出展展覧会は 2019 年「九⾕の現在」カラフル・オーナメント・オブジェ・クタニ(⽯川)、2019 酒器展(東京)。

 

⽶津 真理奈(よねつ まりな)

1994 年⼤阪⽣まれ。現在、⾦沢を拠点に活動。2015 年富⼭ガラス造形研究所造形科修了、ド イツ・Bild-Werk- Frauenau にて Stephen Paul Day ⽒のワークショップ受講、2017 年富⼭ガラス 造形研究所研究科修了、2020 年⾦沢卯⾠⼭⼯芸⼯房ガラス⼯房修了。受賞歴に 2017 年富⼭ガ ラス造形研究所卒業制作展優秀作品賞、2018 年富⼭市美術展インスタレーション部⾨ 2018 優 秀賞。出展展覧会に 2018 年第 7 回現代ガラス展 in ⼭陽⼩野⽥(⼭⼝)、⼯芸回廊グループ展(⽯ 川)、⾦沢卯⾠⼭⼯芸⼯房研修者作品展(⽯川)、2019 年アートフェア東京 2019(東京)、2020 年 TAIPEI INTERNATIONAL ART FAIR(台湾)、Art Fair Philippines(フィリピン)など。