黒川 徹「弦理論」

法則に出会った瞬間が一番うれしい。   ----  黒川徹

 

物理的な抽象美を表現する黒川徹の作品は紐作りで構成されています。底面から積層さ せ、面を立ち上げて行きます。面がせめぎ合い、内側が外側になり、次元や空間を往き 交います。紐作りにこだわるのは、「万物の根源である素粒子は極小の紐でできてい る。」とする弦理論(ひも理論)から。その他、黒川作品の原点になっているのはメビウ スの帯、クラインの壺、ポアンカレ予想などの位相幾何学の定理です。

 

「形を作るとはどういうことだろうか。」と自問し続け、宇宙や自然界に見る幾何学的な 形のように、本能的な感覚と理性で独自の数学的な世界を表現します。2008 年以降は形 をより明確に見せるために黒陶よりも高温焼成して炭素を結晶化させた「銀黒陶」を制 作しています。「銀黒陶」はその時々の光や自然の変化によって様々な表情を見せます。

 

2018 年からは黒川にとって新素材である金属に挑戦し、絡まった2つの輪、オクシモロ ン(Oxymoron)を制作しました。輪を重ねたり、伸ばしたりと、金属と関わることで陶 作品にも新しい発想で取り組んだ今展。土での制作は重力という大きな制約がある中で、 黒川は土ならではの柔らかさや親しみやすさを表現していきたいと言います

 

 

黒川の仕事とは、このようなやきものが有する制作にまつわる原始的側面を、素材ややきも のの特性を受け入れつつなおかつその特性をやきものに即した「数学的」な思考で視覚的な 造形に置き換えていくことである。その結果が黒川作品の幾何学的に連続、反復する空間構 造やそこに同居する形態のなめらかさであるように、黒川は「やきもの」との制作上の相互 作用において作者としての自己実現を目論むのである。

----- 京都近代美術館 学芸員 大長智広

 

 

 

黒川 徹

1984年京都府生まれ。2007年に筑波大学芸術専門学群美術主専攻彫塑コース卒 業。2009年に京都市立芸術大学美術研究科修士課程工芸専攻陶磁器修了。その後精力的 に国内外の滞在制作やワークショップに参加。滋賀県立陶芸の森(信楽、2012年)、新 北市立鶯歌陶瓷博物館(台湾、2013年)、台南藝術大學(台湾、2014年)、 ダハブ国際セラミックシンポジウムにてワークショップ (エジプト・カイロ、2015年)、 バイカル国際セラミックシンポジウムにてワークショップ (ロシア・イルクーツク、 2015年)、スファックス国際セラミックシンポジウムにてワークショップ (チュニジア、 2016 年)、中国美術学院にてワークショップ (中国・杭州、2017 年)など。 2018~2019 年は「京都 x パリ」京ものアート市場開拓事業-Savoir-faire des Takumi プロ ジェクトに京都市代表として選ばれ、パリの金工作家に学ぶ。2007 年に神戸ビエンナー レ(准大賞)と長三賞現代陶芸ビエンナーレ(長三大賞)を受賞。2017 年に国際陶磁器 フェスティバル美濃 ́17 (審査員特別賞)を受賞。 2018 年は The Gyeonggi International Ceramic Biennale (GICB)でファイナリストに選ばれる。2019 年は益子美術館のグループ 展に出展が決まっている。主なパブリックコレクションに、滋賀県立陶芸の森(信楽)、 新北市立鶯歌陶瓷博物館(台湾)、日本の家近代美術館(アルゼンチン)、エポックアート ミュージアム(中国・温州)、エジプト文化庁(エジプト)、チュニジア文化庁(チュニジ ア)、リッツカールトン京都(京都)などがある。