「その場所にある材料で、その場所のことを現す」 尹はその思いつきを 2010 年、京都鴨川中心部で試した のを始まりとして、多摩川、揖保川、淀川、テムズ川、セーヌ川、瀬戸内海と旅を続けながら作画を重ねて きました。
今回 鴨川の流れのすべての風景を体感すべく、昨夏、鴨川の源流から桂川との合流地点までの 9 カ所で砂 や石を採取しました。それを 200 度から 1280 度に分けて焼成し、尹が探し求める色:鉄分を含んだ砂が赤 く変化し、特徴的な色を出しているものを選び顔料に加工して、始まりの地にふさわしい再試行になるべく、 古代から流れる川の風景をミニマルな表現方法で平面に描写しました。
尹がつくる絵の具は、画材店に並ぶ鮮やかな発色で何でも描ける便利なものとは違い、色の偏った不完全な ものでしかありません。しかし、身の回りにありふれた砂でさえも、丹念に扱って加工すると美しい性質が 現れてきます。それを工夫して使うことで、その材料にしか表わせないことが描け、フレスコ画でも日本画 でもない誰も見たことのない素材の表情が表現できるのです。
今展では 、加茂川真黒石から作った絵の具で制作した作品も展示いたします。この石は楽焼にも使われてい るもので、石の中に青みをみいだした尹は石を細かく砕き、焼成し、顔料を作りました。灰色の風景の中でひっ そりと輝く青は、鴨川の砂の赤とコントラストをなし、陶粉画独特の素材の新たな可能性を示唆しています。
尹は、「焼くという行為は人類が自然界に加えられる不可逆的な化学変化の最も素朴なかたちだという解釈 に辿り着いた」と言います。焼くことは人間の営みの象徴であり、それを芸術という精神のための営みと重 ね合わせた尹は、自分の身の周りにあるありふれたものを焼き、絵の具にして作品を描きます。
太古から変わらない時間の流れの中で、Sand River ‒ 砂もまた流れ川の砂を焼いて絵を書くことで、 触れる 続け、人の営みとともに風景を作り上 風景の げてき 本質に た。 ことができるのではないか。──尹 煕倉 YOON Heechang