石井は、友禅染という伝統的な染色技術の過程を記憶装置と位置づけ、変容し続ける社会を捉え、色鮮やかな色彩を用いることで社会事象を作品に昇華させます。そして作品を鑑賞するという行為を通じて、鑑賞者は自らがおかれた社会を取り巻く出来事に思いを巡らせることができます。本展開催地、京都は友禅染発祥の地でもあります。元禄時代(1688-1703)に宮崎友禅斎が金糸や刺繍等の装飾を施すことなく、鮮やかな色彩と斬新な意匠を用いて四季折々の風光明媚な事象を描き、人々を魅了しました。一方、石井は、文化庁の新進芸術家海外研修員として2年間のロンドン研修で培った経験、新たなマテリアルとの出逢い、西洋と東洋の絵画及び染色表現の探究と発見を礎に、新たな染色絵画を生み出します。現代における伝統芸術の在り方を提起した展覧会です。
本展は、糸目友禅染技術と西洋絵画ステイニング技術、アナログとデジタルの表現を組み合わせて現代都市風景を捉えた以下二つのシリーズに分類される作品郡で構成しています。まず、「都市夜景」シリーズは、現代都市の象徴である都市のネオン風景が主題です。夜間の都市に浮遊する広告のネオンライトと電気エネルギーの図像を、染めの行為、すなわち「染料の蒸し定着=保存」として捉え直し、絵画形式で保存することで、伝統芸術の可能性と西洋絵画ステイニング絵画の可能性を問います。次に、『都市漂着物』『ダンボール』『滝』シリーズでは、日々の都市生活に瞬間的に出現する路上のゴミが主題です。都市観察中に自身が偶然に発見して撮影した路上のゴミ写真の図像を、『都市夜景』シリーズ同様、絵画形式で保存することで、伝統芸術の可能性と西洋絵画ステイニング絵画の可能性を問います。
友禅染発祥からおよそ300年の時を経て、現在の浮き世をとらえた石井亨の「平成浮世絵」をご覧頂ける貴重な機会となります。是非ご高覧頂けますよう御案内申し上げます。