この度、艸居と Eunoia による合同企画として、5名の作家によるグループ展「関西で育まれる表現」を開催いたします。
「関西で育まれる表現」というテーマの背景には、この地域を中心に展開してきたモダニズムやアヴァンギャルドの歴史があります。大正期新興美術運動、京都の日本画アヴァンギャルド、1952 年に発足した現代美術懇談会(ゲンビ)、1954 年から 1972 年まで活動した具体美術協会、そして関西ニューウェーブに至るまで、関西では既存の美術の枠組みを問い直し、新たな表現の可能性を切り拓く実践が繰り返されてきました。そこには、既成の価値観や制度にとらわれず、素材や技法、身体、空間との関係を通じて表現そのものを更新しようとする、前衛的な精神が通底しています。本展では、こうした歴史的な潮流を参照しながら、その精神が現代の作家たちの実践にどのようなかたちで引き継がれ、新たな表現として展開しているのかを探ります。
関西における表現を考えるうえで、京都をはじめとする地域に蓄積された文化や技術もまた、重要な背景となります。京都は、建築や工芸、伝統芸能、絵画など、日本で培われてきた多様な表現が今なお受け継がれ、同時に新たな解釈や実践を生み出し続ける場所として、国内外から注目を集めています。長い時間をかけて培われた技術や素材との関係は、過去の様式を保存するためだけのものではありません。現代の作家たちにとって、それらは新たな表現を生み出すための手がかりであり、既存の価値や方法を問い直すための出発点にもなっています。
本展に艸居から参加するシルヴィ・オーヴレは、信楽の滋賀県立陶芸の森での制作や京都での滞在を通じて、土地の素材や環境との関わりから作品を展開してきました。また、石井亨は、京都で育まれた染色技法である糸目友禅を基盤としながら、その技術や工程を現代的な表現へと置き換える試みを続けています。いずれの実践においても、地域に蓄積された文化や技術は、単に受け継がれる対象ではなく、現在の制作を通じて再解釈され、別の可能性へと開かれていきます。Eunoia からは、他者や第三者の介入を作品に取り込み、すでに存在するものへのアプローチを絵画を通して実践する長尾郁明、リズムや音楽的な感覚を手がかりに絵画を構成し、空間と知覚の関係を探る岸本望、独自のユーモアを交えながら、言葉が喚起するイメージと対象そのものとのずれを作品に取り込む古川諒子が参加します。
神戸をはじめとする関西の各地域は、阪神・淡路大震災を経験し、破壊と再生を経ながら、その都市や社会のあり方を再構築してきました。自然災害によって既存の環境や人々の生活が大きく変化し、その後の復興を通じて新たな風景が形成されていく過程は、地域の歴史を考えるうえで欠かせないものです。破壊と再生、喪失と構築、あるいは既存のものを別のかたちで捉え直すこと。こうした経験や環境もまた、関西という土地で表現が生まれる背景のひとつとして考えることができます。
これらの実践は、一つの様式や共通した美意識に集約されるものではありません。むしろ、素材や技法、思考の出発点が異なるからこそ、そこには多様な表現の可能性が現れます。歴史的な前衛運動の精神、地域に根ざした文化や技術、そして社会や環境の変化。それらを背景としながらも、現代の作家たちが過去の表現をそのまま踏襲するのではなく、自らの経験や問題意識を通じて何を受け継ぎ、何を問い直しているのか。その差異や広がりのなかに、現在の関西における表現の一端を見ることができます。
また、本展は、京都を拠点とする艸居と神戸を拠点とするEunoia という二つのギャラリーの協働によって実現します。それぞれのギャラリーが異なる視点から作家と向き合い、継続的な活動を通じて築いてきた関係を持ち寄ることは、関西の美術環境を支えるネットワークの一つのあり方でもあります。作家の制作を支え、作品を紹介し、地域の内外へとつないでいくという日々の活動の積み重ねもまた、現在の表現が育まれる土壌を形づくっています。
関西における前衛の歴史は、過去の美術運動として完結したものではありません。その精神は、伝統と革新、地域と外部、既存の技術と新たな方法との関係を問い続ける、現在進行形の実践のなかにも見いだすことができます。関西という土地に蓄積された歴史や文化を背景としながら、現代の作家たちは何を受け継ぎ、何を乗り越え、どのような表現を生み出しているのでしょうか。
「関西で育まれる表現」は、 名の作家それぞれの実践を通じて、関西における美術の歴史的な蓄積と、そこから現在へと広がる表現の可能性を提示する試みです。過去から受け継がれてきたものと、今ここで生まれつつあるもの。その交差する地点から、関西という土地が育む表現の現在地を探ります。
