2020年、京都芸術大学の教育現場から生まれた二人のコラボレーションは、異なるメディアの可能性を拡張しながら、写真と陶芸に共通する言語や感覚の存在を問い続け、その対話を通じて新たな表現の可能性を追求してきました。本展では、その探求の成果として、写真と陶芸を用いた新作の参加型インスタレーションを発表します。コラボレーション作品に加え、各作家の個別作品も併せて展示しております。
多和田は、写真性に根付いた、日常とは異なる次元のコミュニケーションを探求し、実践し続けている現代美術作家です。彼女は、芸術療法や民間信仰のリサーチをもとに、写真の表面を削る、燃やすといった物理的な介入を施す独自の手法を用い制作しています。また、母や母系家族など他者と協働する制作を通じて、新たな関係性や記憶の層を浮かびあげることにも取り組んでいます。こうした手法によって、写真・絵画・彫刻の境界を超え、本来写真が持っていたアウラや魔術的な力を取り戻そうと試みています。
福本は、陶芸を基盤としながら、その枠組みを超えた表現を探求する作家です。淡く繊細な釉薬表現を特徴とし、硬質な印象を持つ磁器に柔らかさや温かみを引き出し、独自のアンビバレントな美を創出しています。また、焼成の過程で生じる歪みを受容する造形方法によって、作家の意図と偶然性が共存する、唯一無二の表情を持つ作品を生み出しています。
本展では、実験的なインスタレーション作品 「The Scent of the Sky」 を展示します。本作では、さまざまな鑑賞者の介入を受け止めながら変容する作品のあり方を提示し、最終的な完成のタイミングや形態を購入者が選択できる構造を持たせています。所有という行為そのものが作品のプロセスの一部となり、作品の境界や存在の在り方を問い直す試みとなるでしょう。
作家ステートメント:
「落下する青」
陶磁器の器が空間に吊り下げられ、その表面には転写された青い写真が定着せずに留まっている。そこに写るのは、様々な時代の女性たちのポートレート。その顔は、写真家と陶芸家の顔と入れ替えられ、異なる時間が一つの器に重なっている。
来訪者が水を吹きかけると、イメージは歪み、滲み、溶け合い、流れとなり、器の口の最も低い一点へと集まる。水滴は重力に引かれ、ある瞬間落下する。床に置かれた真っ白な磁器の林檎や壺が、その雫を受けとめる。
人生のある瞬間、わたしたちは来たるべき誰かへ向かい、すさまじい速度で接近し、束の間の相乗りの後、再び遠ざかる。時代を超えたわたしたちの肖像は、見知らぬ誰かが吹きかけた水の粒子に溶け、器からこぼれ落ちる。
落下する青い釉薬は、取り戻せないものの気配に満ちている。
焼成された磁器の林檎は、わたしたちの雫を受けとめた瞬間、密やかに息を吹き返す。
多和田有希(たわだ ゆうき)
1978年静岡県生まれ。東北大学農学部応用生物化学科生命工学専攻卒業後、ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツ写真学科を卒業。2011年、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。主な展覧会に、「I’M SO HAPPY YOU ARE HERE JAPANESE WOMEN PHOTOGRAPHERS FROM THE 1950S TO NOW」(アルル国際写真祭、2024)、「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」(東京都写真美術館、2022)、「第12回恵比寿映像祭時間を創造する」(東京都写真美術館、2020)、「ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち」(21_21 DESIGN SIGHT、2018)など。その他、国内外のアートフェアや展覧会に多数参加。
福本双紅(ふくもと ふく)
1973年京都府生まれ。1997年、京都市立芸術大学美術学部工芸科卒業。1999年、同大学大学院修了。2019年、同大学にて博士号取得(論題「陶造形における自然と作為―『おのずから』と『みずから』の『あわい』」)。2001年、京都市内に工房を設立。以降、国内外の個展、グループ展、美術館企画展、アートフェアにて作品を発表。受賞歴に、朝日現代クラフト展グランプリ(2001)、京都府美術工芸新鋭選抜展最優秀賞(2002)、五島記念文化賞美術新人賞(2003)、京都市芸術新人賞(2008)、京都府文化賞奨励賞(2012)など。2004年には五島記念文化財団の助成を受け、アメリカおよびヨーロッパ各地で1年間の研修を行う。パブリックコレクションとして、京都文化博物館、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、フロリダ大学ハーン美術館、ポートランド美術館、ギメ東洋美術館(パリ)などに収蔵されている。