菊間 雄一郎: 「夏の痕跡」

艸居アネックス(京都)では、菊間雄一郎個展「夏の痕跡」を開催いたします。弊廊では初めての個展となります。菊間は2007年に留学を機に渡英し、現在はロンドンを拠点に活動している作家で、これまで日常生活で偶発的に起こる事柄を作品として表現してきました。在学中に、東京藝術大学とロンドン芸術大学の共同企画であるグループ展「複雑なトポグラフィー」へ日英の現代美術家として18組に選抜され、2020年以降はイスタンブールやロンドンなど、国際的なギャラリーにて個展を開催し活動の幅を広げていきます。本展では南ロンドンで観察した植物の形に注目し、そこに宿るリズムをテーマに制作した作品など、全10点を展示いたします。

 

日常生活のあらゆる現象の中で、ふと現れる偶発的そして非日常的イメージの可能性を作品化することを試みてきた。

― 菊間雄一郎

 

菊間は、私たちが普段見過ごすような日常の取るに足らない物事をイメージとして作品に捉えます。例えば、濡れた布にヘアドライヤーの熱風が形作る乾燥痕、使い切るまで何度もプッシュされ続ける保湿剤スプレーの霧の形状、大学のデザイン課題の制作途中で大量発生する板の切れ端の形状などがあります。このように絵画的ではなく、日用品やファウンド・オブジェクトをツールとして使用し、コントロールされた現代の環境下で偶発的に発生するイメージを作品として残してきました。制作過程での彼の役割は、身の回りのあらゆる現象の中に潜在的に流れる鼓動のようなエネルギーを、様々な手法を用いて可視化することだと菊間は言います。

 

中でも本展では、南ロンドンのモーデン町にて観察した植物の形に注目し、そこに宿るリズムをテーマに制作した作品を展示いたします。普段は見過ごしてしまうような道端の雑草も、じっくり観察すると各々固有の線や形を成しています。それらの造形を反復したり重ねたりすることで、躍動感のあるリズムとパターンが生まれます。これらのプロセスは1940年代に始まった、「具体音楽」とも訳される「ミュジック・コンクレート」を起源とするサンプリング技術を多用した音楽からも、インスピレーションを得ています。これらの作品は、収集した植物を作為的、無作為的に画布上に配置し、薄めた墨汁を園芸用スプレーで噴霧して再現されたシルエットたちです。それはサイアノタイプのように、使用するモチーフの実物大のネガティブとも言えますが、菊間はそこから植物が生み出す鼓動のような律動を抽出することを試みました。

 

移ろいゆく日々の中で、作家の目を捉えた「夏の痕跡」たちを、ぜひご高覧いただけますと幸いです。