1932年に十三(大阪)に生まれた三島は、50年代より伊藤継郎のアトリエに通い絵画の制作を始めました。その後、三島茂司に師事し、新聞紙、雑誌、馬券、蚊帳など、印刷物や廃材を使用した実験的なコラージュ作品に取り組みました。1954〜69年にかけて出展した独立展(東京都美術館で開催)では大阪市賞(1961年)、独立賞・須田賞(1963年)を受賞し、1964年には国立近代美術館京都分館で開催されました「現代美術の動向―絵画と彫塑」展に出品しました。その他、関西独立展、独立新人選抜展(東京都美術館開催)、朝日新人展(朝日新聞社主催)などに出展し、日本の前衛美術において画家として頭角を現しました。

 

1971年からは素材を土に移行し、新聞紙、広告ビラ、コミックブックなどをシルクスクリーンで土に転写した立体作品を制作しました。「氾濫する情報に埋没する恐怖」や「現代の消費社会から生み出されるゴミへの危惧感」を割れる緊張感のある陶で表現することで、三島作品における表現の可能性を広げていきました。2001~2005年には溶解スラグ*を使って、巨大なゴミ箱「もうひとつの再生2005-N」を制作し直島に野外設置しました。2019年には大英博物館での大規模マンガ展「The Citi exhibition Manga」に出展、収蔵され、国内外で更なる注目を浴びました。

 

「命がけで遊んでいます」と語る三島の作品は、現代の消費社会や情報社会に警笛をならしながらも、絶妙なユーモアに富み、どこか温かい人間味を感じさせます。本物なのかゴミなのか区別がつかなくなるほど精巧につくられた「割れるゴミ作品」は、時には人を驚かせ、鑑賞者の心を惹きつけてやみません。昨年からコロナという感染病の蔓延により世界情勢が不安に包まれました。しかし、私たちは環境問題という次なる課題を背負っています。本展を通して私たちの将来を見つめる機会になると幸いです。

 

*廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を1400℃以上の高温で溶解して出来たガラス粉。

 

 

三島 喜美代(みしま きみよ)

1932年大阪府生まれ。現在は十三(大阪)と土岐(岐阜)にて制作を行う。1954年より独立展に出展。のちに夫となる三島茂司に師事。1986-87年ロックフェラー財団の奨学金によりニューヨークに滞在。主な受賞歴は独立奨励賞(1954年)、関西独立同人賞(1961年)、関西独立賞(1964年)、第9回シェル美術賞展佳作賞(1965年)、関西独立努力賞受賞(1966年)、ファエンツァ国際陶芸展金賞(1974年)、第11回現代日本美術展佳作賞(1975年)、日本現代陶彫展'88金賞(1988年)など。2019年にはトリノ(イタリア)で開催されたArtissimaにて、Sardi per l’Arte Back to the Future Prizeを受賞。同年、芸術家としては初めての第5回安藤忠雄文化財団賞を受賞している。主なコレクションには京都国立近代美術館(京都)、国立国際美術館(大阪)、東京都美術館(東京)、京都市京セラ美術館(京都)、兵庫県立美術館(神戸・兵庫)、ベネッセアートサイト直島(岡山/香川)、シカゴ美術館(シカゴ・イリノイ・アメリカ)、ボストン美術館(ボストン・マサチューセッツ・アメリカ)、大英博物館(ロンドン・イギリス)、M+(香港)など多数。2021年4月22日から9月26日まで、森美術館(東京)のグループ展「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」、2021年10月パリ市立近代美術館(パリ、フランス)でのグループ展「Flames. The Age of Ceramics」に出展予定。