作品鑑賞において意図主義的立場を取るのであれば、色彩の役割は大きなものと言えます。ど うして作家はその色を使用したのか、使用したことによる効果は何なのかなど、色彩を取り巻く 問いは作家個人の思想や記憶にまで手掛かりを広げます。同じ色を使ったとしても、作家ごとに その意味合いや概念が変わり作品の性質を変えていきます。

 

「Torque, Stellar Blue」、「Sculpture, Slab Construction, Blue Green」、「Sculpture, Black」、「Torque White」、「Relief, Yellow-Orange」、「Plate, Yellow with Green」など、色彩とフォルムを融合させ抽 象表現と幾何学的造形の世界を確立したジョン・メイソン。「Ember Figure」、「Charcoal Cross」 などフォルムの構造を線対称、回転させることでより感興ある造形を生み出し、焼成という陶芸 独特の過程を、土の改良と釉薬の色彩と性質を巧みに操ることで最大限の魅力として作品に表現しました。空間的な体験、視覚的錯覚、建築的なインスタレーションなど、土の可能性を大き く飛躍させた革新的な作品を制作しました。

 

ずんぐりとした土の造形に明快な色彩表現を多用する金子潤は、色彩について次のように述 べています。「私にとって色は視覚的な香りのようです。ひとつの色が他の色よりも完全だとは 信じていません。また、色の意味も完全ではありません。色は生きているのです。塩とコショウ のように、色はその立場を変化させます。ある食べ物に塩をかけ、別の食べ物に塩をかけたとし ても、同じ味にはならないのです」(スーザン・ピーターソン著『JUN KANEKO』p. 67)。

 

70年代に渡米し、ファイバーアートの芽吹きを渦中で体験した草間喆雄。帰国後もテキスタ イルを用いた様々な色彩を用いて空間構造における革新的な制作に挑戦してきました。近年は 樹脂やステンレスに直接糸を巻きつけるコイリング技法を用いて、「OPTICAL ILLUSION」という 色彩を巧みに組み合わせることで視覚的な錯覚を構築し、より立体的な作品を制作しています。 今展では貴重な過去の作品と近年の作品をご紹介致します。

 

ミラノの作家、ファウスト・サルビは独特な現代マヨリカの色合いと低温焼成の肌触りが特徴 で、イタリア人気質に満ちたユーモア溢れる作品で私たちを楽しませてくれます。その他、黒川 徹がカリフォルニア州立大学ロングビーチ校でのアーティストインレジデンスに招聘された際 に制作した作品は、銀黒陶で知られる作品とは一転し、カリフォルニアの海や空の色から感化を 受けた色鮮やかな青や緑の釉薬が施され、色彩と造形のバランスの調和に成功しました。一点は ロサンゼルスカウンティー美術館に収蔵されています。 色は人間の感覚に直接的にアプローチし、感情と深く関わります。機械化された高度な現代社 会において私たちが見落としている色はないでしょうか。色と色の間に存在する多彩な色彩を 今展を通して感じ取っていただければ幸いです。

 

 

マット・ウェデル(Matt Wedel)

1983 年アメリカ、コロラド州パリセード生まれ。2005 年 The School of the Art Institute of Chicago 卒業。2007 年カリフォルニア州立大学大学院ロングビーチ修了。主な受賞歴に 2002 年メサステート・カレッジ第 26 回年間学生展覧会陶芸彫刻部門一位、2018 年サント財団個 人アーティスト賞、2019 年オハイオ・アート・カウンシル個人優秀賞など。収蔵先にクレ イ・ミュージアム・オブ・セラミックアート(ミドルファート、デンマーク)、ロングビー チ美術館(ロングビーチ、アメリカ)、セント・メアリー大学アートギャラリー(ハリファ ックス、カナダ)など多数。

 

金子 潤(かねこ・じゅん)

1942年名古屋生まれ。1964年ロサンゼルス、Chouinard Art Instituteで学ぶ。1966年カリフォル ニア州立大学バークレー卒業。1971年クレアモント大学院修了。主な収蔵先に、京都市京セラ美 術館(京都)、国立工芸館(石川)、東洋陶磁美術館(大阪)、金沢21世紀美術館(石川)、山口県立美術館(山口)、デトロイト・インスティテュート・オブ・アーツ(デトロイト、アメリカ)、 ガーディナー美術館(トロント、カナダ)、オーストラリア国立ギャラリー(キャンベラ、オー ストラリア)、スミソニアン・アメリカ美術館(ワシントンDC、アメリカ)、ヴィクトリア・ア ンド・アルバート美術館(ロンドン、イギリス)など多数。

 

草間 喆雄(くさま・てつお)

1946年東京都生まれ。1973年米国クランブルックアカデミーオブアート大学院修了。ユタ大 学芸術学部助教授、成安女子短期大学教授、岡山県立大学教授を歴任。現在、岡山県立大学名誉 教授。紺綬褒章。主な収蔵先はベルリブ美術館(チューリッヒ、スイス)、国立工芸館(石川) 旧東京国立近代美術館工芸館(東京)、国立国際美術館(大阪)、京都市京セラ美術館(京都) など。

 

黒川 徹(くろかわ・とおる)

1984年京都府生まれ。2007年筑波大学芸術専門学群美術主専攻彫塑コース卒業。2009年京都 市立芸術大学美術研究科修⼠課程工芸専攻陶磁器修了。主な受賞歴は神⼾ビエンナーレ准大賞 (2007年)、現代陶芸ビエンナーレ⻑三大賞(2007年)、国際陶磁器フェスティバル美濃17審査 員特別賞(2017年)。主な収蔵先はロサンゼルスカウンティー美術館(ロサンゼルス、アメリカ)、 新北市立鶯歌陶瓷博物館(新北、台湾)、アルゼンチン近代美術館日本の家(ブエノス アイレス、 アルゼンチン)、エジプト⽂化庁(カイロ、エジプト)、チュニジア⽂化庁(チュニ ス、チュニ ジア)、京都市京セラ美術館(京都)、滋賀県立陶芸の森(滋賀)など。

 

小坂 未央(こさか・みお)

1982 年北海道釧路生まれ。2004 年倉敷芸術科学大学芸術学部工芸学科卒業。2014 年金沢卯 辰山工芸工房入所。受賞歴は 2005 年 60 周年記念全道展入選、2008 年ビアマグランカイ7入 選、2014 年第 54 回日本クラフトコンペティション入選、2015 年第 23 回テーブルウェア大賞 入選、2015 年金沢市工芸展入選、2016 年国際ガラス展・金沢 2016 奨励賞。

 

ファウスト・サルビ(Fausto Salvi)

1965 年イタリア、ブレシア生まれ。1982 年ガルニャーノ国立美術学校修了。受賞歴に、2005 年第 7 回アヴェイロ国際陶芸ビエンナーレ入選、第 10 回カルージュ国際陶芸展入選、2008 年 第 18 回ヴァロリス国際陶芸ビエンナーレ入選、2013 年第 11 回マニセス国際陶芸ビエンナーレ 入選、2017 年第 39 回グアルドダディーノ陶芸都市国際コンペティション 2017 特別賞、第 13 回アヴェイロ国際陶芸ビエンナーレ入選など。

 

竹村 友里(たけむら・ゆり)

1980 年名古屋市生まれ。2004 年愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科陶磁専攻卒業。2009 年金沢卯辰山工芸工房陶芸工房技術研修修了。主な受賞歴に 2006 年第 46 回日本クラフト 展招待審査員賞(金子賢治賞)、2007 年第 63 回金沢市工芸展金沢市⻑奨励賞、2008 年第 8 回国 際陶磁器展美濃審査員特別賞など。主な収蔵先に滋賀県立陶芸の森(滋賀)、金沢 21 世紀美術館 (石川)、茨城県陶芸美術館(茨城)など。

 

アナ・スー・ホイ(Anna Sew Hoy)

1978 年ニュージーランド、オークランド生まれ。1998 年ニューヨーク、ビジュアル・アーツ・ スクール卒業。2008 年ニューヨーク、バード大学修了。現在、ロサンゼルス(アメリカ)を拠 点に制作活動を行う。受賞歴に 2013 年カリフォルニアコミュニティ財団新人作家賞など。収蔵 先にロサンゼルスカウンティー美術館(ロサンゼルス、アメリカ)、サンディエゴ現代美術館(サ ンディエゴ、アメリカ)、サンフランシスコ近代美術館(サンフランシスコ、アメリカ)など。

 

ジョン・メイソン(John Mason)

1927 年アメリカ、ネブラスカ州マドリッド生まれ。1953-1954 年シュイナール・アート、1955- 1956 年オーティス・アート・インスティチュートで学ぶ。2019 年 1 月 91 歳で永眠。受賞歴は 1961 年ファイン・アーツ・ギャラリー彫刻賞、1982 年カリフォルニア美術評議会彫刻コミッシ ョン賞など多数。主な収蔵先に、カーネギー美術館(ピッツバーグ、アメリカ)、シカゴ美術館 (シカゴ、アメリカ)、ミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザイン(ニューヨーク、アメ リカ)、ロサンゼルス現代美術館(ロサンゼルス、アメリカ)、ボストン美術館(ボストン、アメ リカ)、国立歴史博物館(台北、台湾)、京都国立近代美術館(京都)、愛知県陶磁美術館(愛知)、 滋賀県立陶芸の森(滋賀)、世界陶芸センター(利川、韓国)など多数。